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農業生産科学科

2020/10/25

「病気の巣窟」バラの無農薬栽培。その画期的な方法にせまる。

先生は無農薬でのバラ栽培を研究されているそうですね。

はい。実はバラというのは病気の巣窟のような植物で、それはイチゴ、リンゴ、ナシといった他のバラ科の植物も同様です。だから農家の皆さんは盛んに農薬を撒いて育てているのですが、もし無農薬で栽培できれば、夢の技術と言えます。それに挑戦してみようということになりました。安全な無農薬ですから、レストランで出せるエディブルフラワー(edible flower=食用花)の提供を最終的な目標とし、ほかにも香りを抽出してローズウォーターを取ったり、飲料やアロマオイルを開発したり、幅広い加工品としての用途も考えています。

無農薬栽培のために克服しなければならないのが、まずハダニを防除することです。ハダニはバラに限らず、あらゆる植物に付くダニです。ハダニによる被害は農家にとってもの凄く大きくて、農薬もほぼ効きません。それでも農家の方はハダニ駆除のために、やむを得ず朝晩農薬を撒くということを繰り返しています。

バラの写真

農薬を使わない特別な方法があるということですか?

その方法はズバリ、「紫外線」です。紫外線には特定の波長があり、それを当てるとハダニは卵を産めなくなり、数が減っていくのです。この研究の開発者は兵庫県と京都大学で、私も参画して実証研究を進めてまいりました。

実験として、紫外線を照射するランプを設置したハウスと、設置しないハウスとの比較を2年間行いました。とてもいい結果が出ていて、ハダニやうどん粉病に加えて、他の病気も紫外線で防除できることがわかりました。うどん粉病とはさまざまな植物に発生する病気で、葉っぱなどがうどん粉をまぶしたような状態になって生育不良を引き起こし、最悪の場合枯死してしまう植物の病気です。紫外線はうどん粉病に対して効果てきめんで、紫外線のランプを照射するだけでいろんな重大病害を同時に防除できる効果が確認でき、農薬の散布回数も激減しています。最終的には無農薬にしたいと思っているのが、すでに現実的な話になってきたと感じています。

先生の写真

そういえば、紫外線は太陽光に含まれていますよね。日中はハウスにも届いているのでは? 太陽光ではダメなんですか?

いい質問ですね! その通り、太陽光にも紫外線は含まれています。実は、研究では夜中に照射しています。紫外線は目に見えないので、光に紫色を入れて当たっていることがわかるように工夫しています。そこで夜中、真っ暗の中で紫外線だけを2時間、量は昼間に降り注ぐ紫外線よりも少なくします。そうすると効果が表れます。

不思議なことに、昼間の太陽光にランプの紫外線を付加しても効果は薄いのです。なぜかといえば、太陽光には紫外線もありますが可視光線もあって、その中の青色光が紫外線の効果を打ち消してしまうからなのです。人間が昼間に紫外線をたくさん浴びても、そう簡単に皮膚ガンにならないのは、UVが当たっても修復する光も同時に存在し、紫外線の効果を打ち消すことがその理由だと思われます。だから青色光のない夜中に、紫外線の効果がダイレクトに発揮されるということになります。最近ではビニールハウスに紫外線カットフィルムがよく使われますが、その環境だと病気が発生しやすくなります。やはり日中の紫外線も大事だと思われます。

ビニールハウス内のバラの写真
バラのビニールハウス内に設置された紫外線ランプ。

なるほど、そんな理由があったんですね。ところで、先生はウイルスに感染した植物を再生する研究もされていますね。

はい。植物がいったんウイルスやウイロイドに感染すると、死ぬまでそれを持ち続けることになります。次世代までは引き継ぎませんが、自分が生きている間は共存するしかありません。そこに手を入れるためには、人間が外科的に手術をして再生してやらないといけない。つまり「リセット」です。ここで言う「リセット」とは病気からの回復だけではなく、植物が若返り元気を取り戻すという意味です。

具体的にリセットについて説明しましょう。植物の地上部の全体を形づくっているのが、「茎頂分裂組織」という小さな細胞です。大きさは0.1ミリ。葉っぱや茎といった地上部の全体がたった1つの分裂組織からつくられるのが植物の特徴です。不思議なことに、どんなにウイルスがかかっても、そこだけにはウイルスは侵入できないのです。なので、その部分をうまく外科的に取り出し、そこから新たに植物体をつくりあげるとウイルスから解放された植物が育つはずだと考えました。しかしこれが実に難しく、小さく取った細胞塊はそのまま死んでしまい、培養もできません。いろんな試みを続けるなか、たどり着いたのがいろんな組織と接着させてレスキューする方法です。ありとあらゆる種類の植物を取ってきて、くっ付けていきました。すると、偶然にもキャベツの根端部に茎頂分裂組織を貼付けるとすごく生長し、生存もしてくれたのです。要するに茎頂分裂組織をキャベツ根に移植できたわけですが、キャベツの根端はいろんな植物のレスキューに利用できることがわかりました。

レスキューのイメージ
ウイロイドにかかった植物をレスキューするイメージ図。茎頂分裂組織を取り出し、キャベツの根切断面へ置床させ培養する。

動物だけでなく植物にもウイルスってあるんですね。それと、ウイロイドとは何ですか?

はい。ウイルス、ウイロイド、どちらも病原体ですが、動物に感染するウイルスは自身の周囲を脂質膜でカバーしたものが多く、アルコール性の除菌スプレーをかければ脂質が解けて感染性を失います。一方、植物に感染するウイルスの場合はそのほとんどに脂質膜がないので、アルコールで消毒しても感染します。このことから感染力は植物ウイルスのほうがはるかに強いと言えます。

ウイロイドはウイルスと同じ感染性病原体ですが、ウイルスより危険ですね。感染力が強いんです。ウイルスは自らの核酸 (DNAまたは RNA)をタンパク質の膜で保護していますが、ウイロイドは膜をもたない、いわば裸のRNAで、もの凄く小さい。これが植物に感染すると、植物内の酵素などを使ってどんどん増殖します。細胞内でウイロイドをつくることが優先され、植物は次第に衰弱して死んでしまいます。

恐ろしい・・・では、植物がウイルス感染しても次世代には影響しないということですが、その種は使えるのですか?

それは植物によって異なります。トマト、ナス、ピーマン、トウガラシなどの1年で世代を終える「一年生植物」は種を撒いて栽培・収穫しますよね。種は親のウイルスを引き継ぎませんので、翌年種を撒けばウイルスのない状態からスタートできます。ただし、その世代がウイルスに感染した場合は収穫は諦めざるを得ません。感染した植物は見た目的にも量的にも生育が悪く、局所的に腐ったり、トマトなら赤くならなかったりなどの症状があり、収穫して世に出すことは無理でしょう。

一方、リンゴ、バラ、キクのような植えっぱなしの「多年生植物」ではウイルスを持ち続けるしかありません。リンゴなら種があるからまた蒔けば良いだけじゃないの? と思うかもしれませんが、例えば“フジ”というリンゴの種を撒いてもフジは育ちません。リンゴの種は一つひとつが違う遺伝子なので品種が変わってしまうのです。なので、同じ品種を増やすには接ぎ木や挿し木で繁殖させるしかありません。多年生植物の場合ウイルスに冒されると、接ぎ木や挿し木にもウイルスを持ち越してしまうことになります。その解決策として先ほど解説した「リセット」があるわけです。

なるほど、よく分かりました。リセットの研究成果は実際に応用されているのですか?

はい。一例をあげますと、愛知県における「電照菊」の生産に導入されています。電照菊とはお葬式やお盆、お彼岸などに使われるキクです。キクは種ではなくクローン(挿し木)で同じ品種を育てますので、ウイルスに感染すると持ち越してしまいます。キクで問題だったのは、ウイロイドに感染すると矮化(わいか)するものが出て高さがバラバラになったり、開花時期が揃わなかったり、収量も低下するなどの問題に悩まされていました。そこで、さきほどの茎頂分裂組織をキャベツ根に移植する方法で、ウイロイドをフリー化することに成功し、この技術が実際に活用されています。

これからもやり続けたいのは、病原体をクリーンにして再感染を防ぐ栽培技術を世に出していくことです。そこが研究の根底にあります。

細川 宗孝 教授(近畿大学 農学部 花卉園芸学研究室)

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