RESEARCH PICKUP

農業生産科学科

2023/1/18

大学と地域をより良くつなぐ方法を研究。
自治体、企業、農業者とともに商品開発に取り組む実践教育も展開。

大石 卓史 准教授/農業経営経済学研究室

先生の研究テーマは大学と地域の連携に関することだと聞いています。

はい、大学と地域のつながりをより良くするための方法を研究しています。とくに人口減少や産業の衰退が進む農山村地域と大学のつながりに着目し、大学・地域連携による農業およびアグリビジネス(農業関連産業)の発展や地域活性化に関心を持っています。

大学・地域連携は、大学の力を活用して地域活性化を図るねらいで1980年代から注目されるようになりました。2000年代に入るとその動きが加速し、大学と地域の交流イベントの開催、地域資源の共同調査、特産品の共同開発など、さまざまな連携がなされるようになりました。地域社会には自治体、事業者、地域住民、NPO団体といったそれぞれの主体がいて、大学・地域連携はそれぞれの主体が単独ではできない取り組みを可能にする点で有効な方法です。その一方で、大学サイドと地域サイドとの期待値にギャップがあったり、移動のコスト負担が大きかったり、あるいは人材不足などを理由に、意図した成果が得られない事例が数多く存在するという課題もあります。私はアンケート調査を通じて数量分析を行う手法をメインに、自治体、事業者、住民など対象者の意識や行動などを調査・分析し、大学・地域連携に関する新たなアイディアやあるべき姿を発信していくという活動をしています。多くの大学に、自分たちのためにも地域のためにもなる連携ができる関係性を築いてほしいと思っています。

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近畿大学農学部は大学・地域連携が盛んに行われているイメージがあります。

農業生産学科では、毎年いろんな産官学連携プロジェクトで学生が商品開発に携わるなど、大学・地域連携を教育とも関連付けて実践してきました。本学では自治体、農業者、食品製造業や道の駅といった事業者と意識を合わせながらチームを組み、期待値においてもずれが生じないようにして活動してきました。近畿大学の農業生産学科とかかわれば地域が元気になると言ってもらえる成果を出すとともに、学生たちも勉強になる。そうしたWin-Winの関係構築をめざしてきました。大学と農山村地域とのより良い関係のあり方を追究するなかで、実際の教育活動から研究に関する多くの気づきを得ることができています。だから私の場合、研究テーマと教育テーマは表裏一体の関係であると言えます。

「農業経営経済学研究室」という研究室名ですが、学問分野は何でしょうか?

農業経済や農業経営、農村社会などを研究対象としており、農業生産学科で唯一の社会科学系です。他の研究室のように室内で実験することはなく、社会そのものを研究フィールドに、奈良県内外の地域で役場、農業者、食品企業などと一緒に商品開発やイベント支援などの取り組みを実施しています。

事例を挙げると、福島県川俣町との連携プロジェクトがあります。これは東日本大震災からの復興支援である“オール近大”川俣町復興支援プロジェクトの一環として参加している取り組みで、川俣町関係者と共同で同町の地域資源を生かした商品開発などを手掛けています。2020年には「かわまたジェラート ブルーベリーミックス」を企画・開発し、川俣町の道の駅で販売してもらっています。また、2021年には「かわまたジェラート 川俣シャモになる卵のカスタード」、2022年には「かわまたジェラート 完熟いちご」を新たに開発しています。商品開発にあたっては、本研究室と食品栄養学科が協力し、本研究室の学生は企画・マーケティングの部分を担当しています。もう一つは学科の実習でも協力いただいている奈良県曽爾村との連携プロジェクトです。曽爾村の特産品であるトマトやほうれん草といった高原野菜を使った商品開発をしたり、マーケティングリサーチのお手伝いをしたりしています。最近始まった事例では近鉄百貨店との連携プロジェクトにおけるコラボおせち(近大味めぐりおせち)があり、本研究室の学生が商品企画の提案を行いました。

このように学生たちは、実社会でのフィールドワーク、リサーチを含むマーケティング活動、産官学連携による商品開発に携わりながらアグリビジネスを実践的に学んでいます。研究室に入ってくるのは、商品開発や農山村地域を元気にすることに関心を持った学生たちです。

かつおだしの摂取により、期待できる様々な効果
奈良県曽爾村との連携プロジェクトで作成したレシピブック。曽爾村の特産品であるほうれん草を使ったレシピが数多く掲載されている。

先生の研究室以外でも産官学連携の取り組みはあるのでしょうか?

農業生産学科には、近畿大学農学部独自の資格が得られる「アグリビジネスマイスター資格認定コース」が設置されており、課程の総仕上げとなる「アグリビジネス実習」を通じて、これまでに日本酒、ジェラート、バームクーヘン、ほし芋、芋納豆、芋かりんとうなど多くの産官学連携商品が誕生しています。このコースでは農業・アグリビジネス人材の育成を掲げているのですが、現在の農業経営は農作物を育てて終わりではありません。そのため農業生産(1次産業)と、そのあとの加工(2次産業)、流通販売(3次産業)までをトータルに学修することで、農業の6次産業化という先端・重要テーマを学んでいます。

私はコースの幹事教員として、カリキュラムの運営を担当しています。かなりの人気コースで毎年定員を超える応募があり、これを履修したいという理由で農業生産学科を選んだ学生もいます。所定の科目を履修すると「マイスター」の称号が付与され、そのタイミングが就職活動前なので「ガクチカ」としてアピール材料に活用することもできます。

「アグリビジネスマイスター資格認定コース」にはどんなカリキュラムがありますか?

1年は基礎を学修します。「農学野外実習」では学内にあるものづくり村という畑で野菜を栽培します。農作物を育てた経験がない学生が多いので、その楽しさと難しさを体感してもらいます。難しさの面でいえば、天候や害虫との戦いがあります。そこを頑張って収穫までもっていきます。2年になると内容を高度化していきます。先進的な経営をしている農業法人や農家でのインターンシップのほか、ITCを活用したスマート農業という新しい農業生産のスタイルを学ぶ授業も2023年からスタートします。1年・2年では座学も多く、地域活性化論などの社会科学系、栽培や防除などの自然科学系をバランスよく履修。こられの基礎知識を3年の実習で統合していきます。

総仕上げは3年の「アグリビジネス実習」です。奈良県平群町に協力いただき、平群町の耕作放棄地を再生した圃場を中心に、学生たちが自ら生産計画を立て、農産物の生産から加工、販売までをトータルに実践します。加工品にできる農産物は地元の事業者に入っていただき、共同で商品を開発して販売まで行います。コロナ禍以降はお店に商品を陳列する売り方になっていますが、以前は学生が店頭に立つこともありました。お客様に声がけしたり、試食用に店頭調理をしたり。これは早く再開したいと思いますね。

平群町での実習の様子。サツマイモや奈良県の伝統野菜の紫トウガラシなどを育て、道の駅で販売している。

商品開発は、どんなふうに進んでいくんですか?

最初はディスカッションがメインです。商品コンセプト、ネーミング、メインターゲット、商品の特色をどうするか。そうしたマーケティングに関する要素をブレーンストーミング形式で考えていきます。その結果を企画書や提案書にまとめ、自治体や企業に提出して打ち合わせをします。もちろん、試作や試食も繰り返し行います。例えば、メインの材料をどのくらい入れるかで味、見た目、コストが変わりますので、原価を試算して、利益水準を検討しながら最適な分量を探っていきます。これまでに多くの産官学連携商品を開発してきましたが、おかげさまでどの商品も継続して販売されています。開発にこぎつけても、実際に製造・販売する協力企業が赤字になっていまうと連携も止まりますから、成果を出すことが大切です。この点は学生にとっても大きなやりがいになっていると思います。後輩学生からみると、先輩は面白そうなことをしているなあ、成長できそうだなあと映ることでしょう。教員としては、代替わりしたとき先輩以上にレベルの高いことにチャレンジできる循環をつくれるように努めています。

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商品開発に決まった答えはありません。時々の社会状況や参加するメンバーによって方向性は変わります。商品の内容、ネーミング、売り方なども無数の方法があります。答えのないなかで試行錯誤して、問題にアプローチしていくことは社会に出ると必須です。その経験を学生時代の就職活動前にできることはとても貴重だし、このような教育が実施できるのも大学・地域連携という枠組みがあるからだと言えるでしょう。

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