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農業生産科学科

2019/9/30

メロンを病気から守る農業技術を開発し、安価で安定した供給を実現する。

近畿大学農学部の地元である奈良県と一緒に進めている事業があると聞いています。

これは奈良県に限ったことではないのですが、少子高齢化などを背景に、農業従事者の減少が大きな問題になっています。加えて、休耕地や耕作放棄地も目立っていて、使われていない土地が増えてしまっています。奈良県としては、その土地を有効活用して、新規就農者や農業女子などを増やしたい意向を持っています。そのために今、奈良県と連携して進めているのが「農の入口」モデル事業です。このモデル事業は平成28年度に奈良県が実施した「県内大学生が創る奈良の未来事業」公開コンペで、近畿大学農学部が最優秀賞を受賞した際の政策提言に基づいています。目標は「なら近大農法」の確立です。これには2つの要素があり、一つは古着などの繊維でできたポリエステル媒地を用いた「ユニバーサル農法」、もう一つは情報通信技術を利用した「ICT農法」で、私は後者の担当です。

「ICT農法」とは、ICTによってさまざまな農作業をシステム化し、農業初心者でも栽培管理を可能にする次世代の農法です。一つの目標は、経験や勘に頼ることなく農作業ができるようにする、つまり、農法のマニュアル化です。例えば、ハウス内に設置したセンサーで一定の温度に保つように制御したり、自動的に潅水・液肥を供給できるように管理されています。人間の手作業としては脇芽を取る、吊るす、収穫するという程度にしていきたい。多くの企業がこのICT農法に関心を寄せていて、たくさんの方が見学に来られています。私の研究室ではこのICT農法を駆使して、2年前からメロンの栽培・収穫に取り組んでいます。

奈良は柿で有名ですが、なぜメロンなのですか?

柿やイチゴに加えて、新たな特産品を開発したいという理由と、就農人口を増やしていくためには所得の安定化が欠かせず、メロンのような高収益・高付加価値の作物をつくることが重要だからです。メロンの開発は産学連携で行いました。株式会社松井農園さん(奈良県田原本町)と共同で、あとで説明しますが、フザリウム病(メロンつる割病)に対して耐性があり、非常に甘い良質のメロンができました。皆さんよく知っているマスクメロンです。糖度は夕張メロンよりも高いんですよ。名前は「バンビーナ(Bambina)」。奈良といえば鹿。子鹿のバンビにちなんだ命名です。

メロン「バンビーナ」
近畿大学農学部と株式会社松井農園が共同開発したメロン「バンビーナ」。

実際のところ、売れ行きはいかがですか?

それは重要な問題で、農業には入口に対して出口、つまり収益が必要です。今、バンビーナをどう売り込んでいるかを説明します。昨年、大手商社を通してさまざまな有名スーパーなどの販路を開拓しました。1日に90玉を売り上げたこともありました。これはメロンにしては凄い数です。1500円と安価な設定にしたことに加え、近大ブランドという形で販売した成果だと思います。やはり安価でないと広がりません。また今年は、百貨店でより大きなサイズのバンビーナも販売しましたが、これも他のマスクメロンよりは安価に設定しています。メロンには高級品のイメージがありますが、その固定観念を変えていきたいのです。私たちの目標はICT農法を駆使し、メロンを身近でカジュアルな果物にすることです。気軽に朝食のデザートとして出されるという位置づけで、奈良県の特産品の一つとしてアピールしていきたいですね。

野々村 照雄 教授(近畿大学 農学部 植物感染制御工学研究室)
大手スーパーでメロンを販売。身近でカジュアルなメロンにするために。

パンやお菓子などにメロン味の商品がありますが、そのような展開はありますか?

実は、すでに実施していて、メロンを材料にしたジェラートを開発しました。株式会社テンダーボックスさん(奈良県生駒郡)と連携した「バンビーナジェラート」という商品で、本学のコンビニのほか、株式会社近鉄リテーリングさんに入っていただき、観光特急しまかぜの車内販売、高速道路のサービスエリア、駅ナカのコンビニなどで販売されています。あとは道の駅でも売っています。「道1-グランプリ」というイベントをご存知ですか? 実は昨年開催された「道1-グランプリ2018」のスイーツ部門で、奈良県田原本町にある道の駅「レスティ唐古・鍵」さんが「バンビーナジェラート」を出品し、グランプリを獲得したんです。全国に1145カ所もある道の駅の、スイーツの頂点です。このお店は客足が減っていたのですが、グランプリを獲ってから150%もお客さんが増えたそうで、ジェラートが地域活性化に役立ったというわけです。このように「バンビーナジェラート」は好評で、今年はさらに増産するとともに、add:PAINDUCE(アド・パンデュース)さん(大阪市中央区)の協力のもと、新商品「バンビーナジェラート・プレミアム」の開発が進行中です。甘味料などの合成添加物を極力抑えてメロン本来の甘みや香りを引き出したり、乳脂肪分を使わず口どけをよくしたり、いい仕上がりになっています。

バンビーナジェラート・プレミアム
新商品「バンビーナジェラート・プレミアム」。非常に甘く美味しい。

美味しそうですね。話はもどりますが、先ほどのメロンのフザリウム病について教えてください。

フザリウム病というのは総称で、いろいろな植物でこの病気は発生しています。例えば、メロンで発生するフザリウム病(病気)をメロンつる割病といいます。フザリウム病は植物の根っこにフザリウム病菌が侵入・感染することによって引き起こされます。フザリウム病菌(植物病原菌)が感染した植物は最終的に萎ちょう・枯死します。一方、メロンの葉で発生する病気にうどんこ病があります。葉っぱに白いうどん粉を振りかけたような症状からそう呼ばれています。したがって、メロンを栽培し、果実を収穫するためには、このような病気から根(根部)と葉(地上部)の両方をプロテクトする必要があります。

うどんこ病菌
メロンの葉っぱに感染した「うどんこ病菌」。植物病原菌が伸展すると、葉の全体が真っ白になり、植物は光合成ができなくなる。

農作物の防除法には次の3つがあります。1つ目は「化学的防除法」、つまり化学農薬の使用です。2つ目は「物理的防除法」。つまり物理的要因(静電気、紫外線、太陽熱、オゾンなど)を利用して防除する方法です。そして3つ目は「生物的防除法」といって、生物の力をかりて防除する方法です。有効な微生物(微生物資材)や病気に強い植物(病害抵抗性系統)などを利用する方法があります。育種技術を用いて、「バンビーナ」はフザリウム病に対して抵抗性を持つ新品種として開発されました。

うどんこ病の防除には化学農薬を使うこともできるのですが、フザリウム病に関しては土壌病原菌(根っこから侵入・感染する菌のこと)なので、それはできません。というのは、土壌中に化学農薬をまくことは法律上できないのです。我々はうどんこ病菌がどのようにして植物葉上で生育・感染するのか、特殊な顕微鏡を用いて形態観察を続けてきました。その結果、メロンに感染するうどんこ病菌がどんな菌なのかがわかってきました。

うどんこ病菌はどんな動きをする菌ですか?

メロンうどんこ病菌は分生子柄(ぶんせいしへい)という子孫胞子を形成する構造体をつくり、そこから胞子を放出・飛散させています。これが感染拡大のもと。この胞子飛散をなくすと病原菌の広がりが防げられると考え、そのでき方を重点的に観察しています。特殊な顕微鏡で連続的に調べていきますと、分生子柄をつくりはじめてから、約24時間で分生子柄は完成することがわかりました。さらに静電気を利用して、1本の分生子柄からいくつの胞子が生産されるかを測定したところ、約35個の胞子をつくることがわかりました。この35個を覚えておいてくださいね。

胞子が連なるうどんこ病菌の様子
メロンの葉っぱの上でつくられたメロンうどんこ病菌の分生子柄。約35個の胞子が連なる。

うどんこ病菌は絶対寄生菌と呼ばれており、生きた植物にしか感染できません。通常、カビ(腐生菌)は栄養培地上で生育させますが、絶対寄生菌は栄養培地上で人工培養することができません。そこで人工気象器という機器内でうどんこ病菌を接種した植物を培養します。そこから、うどんこ病菌が感染した植物を取り出して特殊な顕微鏡で観察しています。人工気象器内でメロンうどんこ病菌を培養して気づいたのが、メロンの葉上でメロンうどんこ病菌がこんもりと盛り上がった菌叢(きんそう)をつくったことです。このことから、分生子柄から子孫胞子を飛ばすことができずに、数珠状に胞子が連なってしまっているものと考えました。そこで、自然環境と人工気象器との違いは何か——光ではないかと考え、赤色、青色、緑色、紫色などいろんな色(波長)のLEDを用意して光を当ててみると、赤色の光だと分生子柄から胞子が飛散していくのですが、青色の光に照らされた分生子柄は胞子が数珠状に連なったままになっていました。その胞子の数をかぞえてみると、だいたい35個。これは先ほどの静電気を用いた実験で回収した胞子数と一致します。つまり、青色の光を与えた場合は分生子柄から子孫胞子を飛ばすことができないことが分かったのです。この知見を防除法に応用すれば、メロンうどんこ病菌の感染拡大を防げるはずです。

人工気象器で青色LEDを当てている様子
人工気象器で青色LEDを当てている様子。こうすることでうどんこ病菌の胞子の飛散を防ぐことができる。

別の実験でも胞子飛散と光の関係が証明できました。1個の胞子の大きさは約20μm(マイクロメーター)、花粉ほどの大きさなので目には見えません。その胞子が発芽して、植物細胞に侵入・感染すると菌糸を伸ばし、その結果、菌叢を形成します。菌叢内には多くの分生子柄がつくられています。自然条件下で、静電気を利用して1つの菌叢から放出されるすべての胞子を回収し、胞子の放出・飛散状況を調べてみました。この実験を、年間を通じて行いました。すると日の出と日の入りの時間帯を境にして、日の当たる昼間は顕著に胞子を飛ばしますが、日の当たらない夜間は胞子をほとんど飛ばさないことがわかりました。胞子を飛ばさない夜間での現象は青色の光を与えたときの反応と同じ。メロンうどんこ病菌は光がないと分生子柄から胞子を飛散させることができないことが、この実験からも裏付けられたのです。

すごい! では、それを実際の農業に応用するとどうなりますか?

植物工場的に、青色LEDを設置した苗場で苗を育成すれば、メロンうどんこ病菌は胞子を放出・飛散させることができないので、胞子が付着していない状態で苗を提供できるのではないかと考えています。今は青色LEDを与えた苗に対する影響を生理学的観点から調べています。対照区(自然光を与える)と比較して、草丈や葉の大きさなど生育に何ら問題がないことが証明できれば、今後、実用化できるでしょう。

病気に強いメロンをつくるとともに、うどんこ病菌の感染拡大を防ぐ効果的な防除法を開発すれば、安定的かつ安価なメロンの供給が可能になります。そうすることでメロンをもっと身近でカジュアルな存在にできるし、奈良県の一つの特産品としても貢献できます。まずは機会があれば、バンビーナとジェラートを召し上がってください。味は間違いありません。

野々村 照雄 教授(近畿大学 農学部 植物感染制御工学研究室)

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