RESEARCH PICKUP

応用生命化科

2019/8/7

「ポスト近大マグロ」として近畿大学農学部オリジナル果実酒の
商品化に向けて研究中。

上垣 浩一 教授/応用微生物学研究室

奈良の名産品を使った製品開発を研究されているとお聞きしましたが、どのようなものですか?

奈良県品の柿を使った果実酒(ワインなど果実を原料として発酵させた酒類)の開発に取り組んでいます。奈良県は柿の産地として有名ですが、実は3割近くもの柿が捨てられているという問題があります。見た目がよくなかったり熟し過ぎたりして商品にならないのが理由で、ならば加工食品の材料にできるのではないかと考えました。これまで捨てられてきた柿を有効利用して、奈良らしい果実酒を開発しようということになり、奈良県とタイアップしてこの事業をスタートさせました。

めざすは商品化で、これを「ポスト近大マグロ」に育て上げたいと思っています。さらにワインというお酒は日本ではあまり飲まれていないんです。日本の果実を使って、日本におけるワインのステータスを上げることにも貢献したいと考えています。

近大農学部オリジナルの「柿の果実酒」
大学内での研究の末、完成した近大農学部オリジナルの「柿の果実酒」。

果実酒といえばワインを思い浮かべますが、柿も同じ果物なのでつくり方に共通点も多いのでしょうか?

実はそうとも言えないんです。素材が変われば醸造の仕方も変わり、ぶどうワインとは異なる醸造方法から開発する必要があります。今回の開発における工夫のしどころです。ぶどうは潰すことでジュース状にできますが、水分が少ない柿では圧搾するだけでは液状になりません。柿にはペクチンという食物繊維が含まれていて、それが柿特有のプルンとした感じを出しています。そこでペクチナーゼというペクチン質を分解する酵素を入れてやると、サラサラの液状になります。

あとは温度のコントロールも大切な要素です。温度を上げると酵素の働きがよくなる一方で、上げ過ぎると柿の色合いが失われてしまいます。ただ、低すぎると酵素が働きにくくなる。そのあたりのコントロールをしながら、ちょうどいいラインを模索しているところです。

なるほど。ところで、柿を使った果実酒は、よくある製品なんですか?

ほぼ前例がありません。だから「柿の香りって何ですか」といわれても誰もピンとこないのです。柿らしいかぐわしさをどのようにして出すのか。それは今後研究を続けて、実現していきたい部分です。このノウハウが確立できれば、他の果実でも応用できると考えています。

上垣 浩一 教授(近畿大学 農学部 応用微生物学研究室)

そもそもお酒って、どうやってつくるのですか?

お酒はアルコールが主成分なのはご存じかと思いますが、アルコールをつくるのは酵母です。酵母はもともと好気性の微生物で、通常は酸素のある環境で増殖します。ところが酸素がない状態に置かれると、呼吸のために別の代謝経路を求めます。生きるために違う方法で栄養を摂ろうとするのです。そこで起きる現象がアルコール発酵です。アルコールとは、いわば酵母の排泄物というわけです。

果実におけるアルコール発酵のイメージ図
原料にもともと糖が含まれているため酵母を入れるだけで発酵が進む。

この研究のポイントは醸造方法とともに、酵母も近畿大学オリジナルにこだわっている点です。一般のお酒は日本醸造協会が配布する酵母が使用されていて、オリジナルの酵母というのはまずありません。近畿大学農学部のオリジナル果実酒として、いずれは商業ベースに乗せられる商品となるように基礎から応用までの研究を進めています。

これは近畿大学の大きな強みなのですが、本学は醸造免許を保有しており、酵母のスクリーニング(選別)から醸造、官能評価まで、一貫してシームレスな研究ができる体制があります。試飲会を開くこともありますが、高校生の皆さんは残念ながら参加できませんね。二十歳になったら、ぜひお越しください。

その酵母はどこから取ってくるのですか?

酵母の学名は「サッカロマイセス・セレビシエ」と言い、「砂糖が好きな微生物」という意味です。酵母は甘いものが好きなんですね。だから花の蜜に繁殖していて、花からピックアップすることが可能です。農学部には自然豊かな里山があり、そこに多種多様な花が咲いています。種類としてはキンモクセイ、ツツジ、アベリア、ジャスミンなど。このあたりの酵母をとり溜めて、お酒づくりに適しているかどうかのスクリーニングを行っています。すでによい酵母がいくつか見つかっていて、今は試験醸造の段階に進んでいます。

学内で採取し、育種した数々の酵母菌
学内で採取し、育種した数々の酵母菌を用いて醸造する。

実は酵母にも一つひとつ個性があるんです。それを見極めるために、スクリーニングした酵母を遺伝子解析する研究も行っています。自分たちで取ってきた酵母をただ使うだけでなく、分子レベルで個性を解析していけば、より質のいい酵母に育てていけます。交配もできますので、酵母同士をかけ合わせて、さらに良い酵母を育種することも可能になる。この研究も今進めているさなかです。

研究の様子
酵母の選択によって醸造後の味が変わってくる。

他にはどんな研究をされていますか?

もう一つの分野は発酵食品に関係している微生物の研究です。主に、酵母菌、乳酸菌、酢酸菌などです。

発酵食品は、インフルエンザを予防したりアレルギー症状を抑えるといったさまざまな健康に対する効果があると広く謳われていますね。では、どの成分がどのように作用して効果を発揮しているのか。実はまだよく分かっていないのが実態です。これは興味深いということでこれらのメカニズムを探るため、研究を進めています。

方法としては、実際に商品として販売されている発酵食品に含まれている微生物を使い、純粋培養して調べていきます。微生物の培養を進めて行くと培地の中に大量の「膜小胞」という粒状の物質を出していることが分かったのです。この膜小胞にどんなものが含まれているのかを調べる上で、ある仮説を立てました。この膜小胞がまるで薬のカプセルのように健康に効果のある成分を包み込んで体内に届けているのではないかと。調べた結果、どうやらアレルギーに対して抑制効果があることが分かってきたのです。つまり、膜小胞が薬のカプセルのような役割を担っているのではないかと考えています。
膜小泡の存在自体は大腸菌などでは知られていたのですが、ビフィズス菌、乳酸菌、酢酸菌からも発生していることを我々の研究で突き止めたのです。

膜小泡にはさまざまな種類のタンパク質が含まれています。その割合や多寡が微生物によって相当ばらつきがあることもわかっています。そのことが人体にどう影響するのかについて、学生たちと一緒にタンパク質の構造解析を通じて調べています。

電子顕微鏡で見た乳酸菌の様子
電子顕微鏡で見た乳酸菌の様子。

発酵食品の微生物が健康にいいことが証明されると、どんな分野に応用されていくのでしょうか。

発酵食品がなぜ健康に有効なのかが明らかになれば、医薬品への応用をめざしていくことになるでしょう。狙っていきたいのはDDS(ドラッグデリバリーシステム)です。必要最低限の薬品を、必要な時間、必要な場所へ送達させる技術のことで、発酵食品の健康成分を積み込んでターゲットへ送り込むというイメージです。発酵食品に関係する微生物は普段食べているものですから、安全性も高いですね。

上垣 浩一 教授(近畿大学 農学部 応用微生物学研究室)

医薬品として展開するなら、まずは抗アレルギー剤の開発になるでしょう。そして将来的には、動脈硬化やうつ病という領域まで到達できればという思いもあります。

というのも、うつ病などの精神疾患と腸内細菌との関わりが指摘され始めていて、うつ病の発症あるいは治癒と腸内細菌の種類や比率との相関関係が研究されています。同様に、動脈硬化と腸内フローラの乱れとの関係も研究対象になっていて、医者も注目しています。まだわからないことが多いのですが、私は腸内の微生物が腸管細胞コミュニケーションを図りながら、何かをしているのではないかと予測しています。

身近だけど、わからないことも多い微生物の世界。それでも人間の心身の健康に深く関わっていることは間違いありません。微生物のもつ力を分子のレベルで解明する。そこに微生物学の面白さがあり、これからまだまだ発展を遂げていく分野です。

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