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新しい視点で魚を科学する 水産生物学研究室

細胞工学研究Research of Cell Manipulation for Fish breeding

魚類の細胞機能を利用し養殖に有用な品種を保存する

活動報告写真

植物と違って、動物では細胞を培養系で個体や組織にすることが非常に難しいですが、始原生殖細胞のように全能性をもった細胞は、一つの細胞から個体を誘導することができます。ポイントは4つ。@全能性を保ったままの培養増殖、A初期胚への移植(キメラの形成)、B移植細胞由来の生殖細胞形成、C移植細胞由来の個体、です。この方法を用いると ある種の細胞を別の個体の体内で育て、次世代をつくることが可能になるため、ある種(ある系統)に由来する細胞を凍結保存し、別種(別系統)の体内で育て、個体に復元することが可能となります。これを借腹生産といっています。すなわち、この方法によれば品種系統維持を細胞レベルで行えることになります。有用養殖系統や希少魚種、貴重な実験系統などを、大きな設備や費用、労力を使わず、自然災害や疾病による絶滅を防いで維持することができます。

魚類始原生殖細胞の分取と移植ー借腹操作−Kenkyu

始原生殖細胞は、そのままで個体を形成することのできる生殖細胞に分化する唯一無二の細胞。その細胞を生きたまま他の細胞と見分けられるようにして摘出して凍結保存しておき、必要に応じて個体に復元します。保存された始原生殖細胞を解凍して宿主胚に移植すると、移植細胞は宿主の生殖巣に侵入して、そこで配偶子(卵や精子)に分化します。その最初の工程、始原生殖細胞の識別は生殖細胞だけではたらく遺伝子に蛍光タンパク遺伝子を繋げたRNA液を受精卵に注入することで実現します。摘出する始原生殖細胞と宿主の始原生殖細胞を違う色の蛍光タンパクで標識すると、宿主由来の始原生殖細胞(赤色)のすぐそばに、移植された始原生殖細胞(緑色)が移動しているのが分かります(写真参照)。

細胞や核を移植するーキメラ形成、体細胞クローン

活動報告写真

細胞や核の移植には、通常、直径1mm程度の細いガラス管を火であぶって引き伸ばしてつくったガラス針の先端を、ディスク型の砥石で磨き、先端径を細胞の大きさに合わせΦ20〜70μmにします。それらも全部自分たちでつくるんです。胚を扱うのに慣れるのにはだいたい1ヶ月ぐらいかかりますが、胚盤を切除したり、接合したり、細胞を除いたり移植したりがうまくできるにはもう一ヶ月ぐらいの時間が必要です。顕微鏡下の細かい操作を学生たちに伝えるには、テレビモニターを通じてやってみせるのが一番です。学生たちは、最初はおっかなびっくり、でも見よう見まねでやっているうち、どんどん上達して、いつのまにか巧みに手早く操作をする熟練者になっていきます。魚卵を用いた胚操作について一連の技術が学べます。

細胞バンク構想 ー未来の水産育種に変革をもたらす−

活動報告写真細胞バンクができたなら
○養魚コストの低減化 ○養殖品種の保存 ○希少魚種の絶滅防止のための系統保存
○実験用重要系統の保存

細胞バンクが仲介する育種利用開発システム
        −養殖品種の作出がどんどん進められる−
○原種、純系の維持→細胞バンクへ  ○新品種つくったら維持→細胞バンクへ
○旧品種をスクラップする必要がない ○複数系統での交配育種←原種は細胞バンクから
○系統維持の施設不要→細胞バンクで保管 
○研究者が世代交代しても以前作出した系統は→細胞バンクで保管 
○維持管理の容易性から水産品種を登録できる→特許など開発者の利益が守られる



小林 徹 toru kobayashi

水産生物学研究室
Laboratory forAaquatic Biology
〒631-8505
奈良市中町3327-204