近畿大学農学部応用生命化学科

森林生物化学研究室 Laboratory of Forest Biological Chemistry

褐色腐朽菌の木材分解機構の解明

褐色腐朽菌は自然界において針葉樹の主要な分解生物として働いているきのこです。木造建築物に用いられている主な木材は針葉樹であるため、褐色腐朽菌は木造建築物に腐朽被害を引き起こす主要な生物として知られており、木材の防腐を考える上で極めて重要な生物です。一方で、褐色腐朽菌は木材の主成分であるセルロースを急激に低分子化させる強力な木材分解能力を有することから、バイオマス変換への応用という観点からも興味深い生物です。

他の木材腐朽菌が加水分解酵素を中心とした酵素による木材細胞壁分解機構を持つ一方で、褐色腐朽菌は他の菌とは異なる、特殊な木材分解機構を有していることが知られています。本菌は主要なセルロース分解酵素を含む、多くの植物細胞壁分解酵素遺伝子を持たず、酵素による分解系が不完全であることが知られています。しかしながら、本菌は強力な植物細胞壁分解能を有しており、これは錯体介在型フェントン反応と呼ばれる低分子化合物による酸化的分解反応によるものであると考えられています。この木材分解機構については、これまでにも多くの研究が行われてきましたが、未だその全容の解明には至っていません。

当研究室では、褐色腐朽菌の木材分解機構の全容を解明するべく、①網羅的な遺伝子発現解析・分泌タンパク質解析を行うことにより本菌の木材分解時に発現が誘導される遺伝子・タンパク質の全体像を明らかにし、その中から木材分解への関与が予想される新規タンパク質を見出す、②発見されたタンパク質の詳細な機能解析を行うことで、その木材分解機構に果たす役割を明らかにする、という一連の研究を行っています。この研究により褐色腐朽菌の木材分解機構の全容を明らかにし、その知見を木材の防腐および木質バイオマス変換に応用していくことを目指しています。

シロアリの分化制御機構の解明

シロアリは木を主食とする昆虫であり、木造建築物に食害による甚大な被害を与える生物として知られています。シロアリによる食害を防ぐためには、シロアリがどのように住宅に侵入するにまで至るのか、その生態を明らかにする必要があります。シロアリは社会性昆虫であり、一つのコロニーの中でそれぞれの仕事に特化した階級が存在し、分業を行っています。どのように階級分化するのかを明らかにすることは、その生態を明らかにする上で極めて重要な知見となります。当研究室では日本において主な蟻害を引き起こしているシロアリである、ヤマトシロアリとイエシロアリの階級分化機構を明らかにするべく研究を行っています。具体的には、分化への関与が予想される遺伝子およびマイクロRNAの発現制御により、それらの形態変化に果たす役割を明らかにし、シロアリの階級分化機構を解明することを目指しています。