■研究目的・意義
プロジェクトリーダー:水産研究所・教授 升間 主計
近年の漁場の急速な拡大と乱獲は、天然資源を激減させ,海洋の生態系を大きく撹
乱しています。本事業の担当者は,これまで21世紀COEプログラム「クロマグロ等の魚類養殖産業支援型研究拠点」とそれに続くグローバルCOEプログラ
ム「クロマグロ等の養殖科学の国際教育研究拠点」において、クロマグロの完全養殖や主要な養殖魚の種苗量産技術の確立に有用な多くの貴重な知見を集積して
きました。また、魚類養殖による食糧タンパク質の確保と海洋生物資源の維持に有効な方法の開発を通し、世界の魚類養殖に貢献できる多くの若手研究者を輩出
してきました。
しかし、魚種によっては種苗生産や養成技術が未だに確立されておらず、養殖場に
おける自家汚染や疾病の防除に有効な対策が十分に提示されたとは言えません。本研究プロジェクトでは、これらの問題を解決して魚類の完全養殖の高度化をさ
らに推進し、我が国だけでなく世界の養殖産業の発展を牽引するとともに、失われつつある海洋資源と環境の維持・回復を促すことができる高度な技術と有益な
人材を育むことを目的としています。
■研究体制
近畿大学水産研究所および農学研究科水産学専攻に所属する高い専門性を持つ研究
者が、「完全養殖システムの構築」と「環境低負荷システムの構築」の2グループを構成し、緊密な連携・計画のもとで完全養殖技術の高度化の推進を目指しま
す。これを通じて重要な知見を集積するとともに、若手研究者の人材育成を実践して行きます。本研究プロジェクトは水産研究所を拠点とし、研究所の各実験場
が備える大規模な陸上および海上施設、農学研究科の実験飼育施設を用いて産業規模の研究と教育を進めます。また、各実験場に併設されている水産養殖種苗セ
ンターが、起源や遺伝的背景が明確で健全な供試魚を必要に応じて供給する体制を取っています。さらに、異なる専門性を持つ研究者が相互に交流し、多方面か
ら問題解決に向けた研究を進める横断的研究と教育を行う体制が整っているのも特徴の一つと言えます。このように,実効性が高くかつ高度な研究と技術開発を
通して、若手研究者の育成を効率的に進めていきます。
■各研究グループのテーマ概要
グループA完全養殖システムの構築
グループリーダー:水産研究所・教授 升間 主計
持続的に完全養殖を発展・繁栄させるためには、生産効率のさらなる向上を目指し
た研究開発に加えて、これまで養殖が困難とされてきた新魚種の完全養殖技術の開発も重要な課題となります。本研究テーマでは、これまでに完全養殖によって
人工種苗を用いた養殖が可能となっているクロマグロ等の魚種において、分子生物学、病理学、微生物学などを切り口にして、品種改良や疾病防除を中心にした
先端的研究を行い、真に効率的で経済的な完全養殖システムを開発することを目指しています。また、新魚種として、飼育環境下では成熟せず、種苗を生産する
ことが困難なマアナゴをモデル魚として、生殖生理学、発生生物学などを駆使して採卵から仔稚魚の飼育まで、種苗量産技術の確立を目指します。
グループB環境低負荷システムの構築
グループリーダー:農学研究科・教授 江口 充
完全養殖が達成されても、環境を配慮しないシステムは、持続的な養殖生産を指向
する上では不完全と言えます。特に、養殖場における最大の汚染負荷は飼餌料からの栄養素のリーチングや排泄物であり、陸上施設や海域における生産システム
の改善、負荷・許容量の解析、環境改善に向けた対策など、革新的技術の包括的な開発が欠かせません。本研究テーマでは、環境負荷の少ない省エネ型陸上生産
システムの構築、排泄物を極限まで抑える環境低負荷配合飼料の開発、養殖環境の水質、微生物叢、魚類生物相、有機物蓄積のモニタリングから底泥・残渣の資
源化までを行う物質循環の人為的制御を目指しています。これらの研究成果は、低迷する魚類養殖産業の革新的な展開だけでなく、世界人口の増加を支えるタン
パク質源の供給と海洋資源の保護に貢献することが期待されます。