境界細胞−粘液複合体の生態的意義

Ecological role of root border cell – mucilage complex

 

植物根の根冠は、根の成長点を土壌のさまざまなストレスから保護するとともに、重力刺激や水勾配を感受し植物ホルモンを生成する重要な組織である。この根冠を構成する細胞は始原細胞群で分裂した細胞と同じ数だけたえず土壌中に脱落する。例えば、砂耕栽培したトウモロコシの種子根では一日当たり1,900から3,200のインタクトな細胞が脱落する(Iijima et al.,2000)。それらの大部分は生きた細胞であり、分裂する能力を有することも明らかになっている。従って、これらの脱落生細胞は、根圏内において根と土壌の界面に存在するBorder cell(境界細胞)としてさまざまな生態的な役割を担うことが推定できる。境界細胞は、多糖類を主体とする根冠粘液に覆われているため、土壌中では粘液−境界細胞複合体が形成される。言い換えれば、根冠から分泌される粘液層中には多数の境界細胞が存在しており、これらの複合体が粘液の特性と生細胞の特性の両者を併せ持ち、根と土壌界面における様々なやりとりを介在しているのであろう(飯嶋 2003)。高等植物が生細胞を恒常的に根圏中に放出することは、根-土壌間の相互作用に関する興味深い話題の一つである。なぜ、植物が少なからぬコストを払って生きた細胞を放出するのか、それらの細胞群はどのような形態で、なにをしているのかはほとんど明らかになっていない。本研究では、海外の研究者(スコットランド、イングランド、ドイツ)や国内の研究者(東京大学)と共同して、境界複合体の生態的役割を明らかにすることを目指している

 

研究1 境界細胞が土壌と根の界面に存在し、緩衝帯様の働きをすることによって根の貫入を助けることの多角的な証明。

 

研究2 植物由来の炭素が根圏中に供給されると、原生動物の働きによって可吸態窒素が放出され、植物に再利用されるという仮説の検証。この仮説を検証するとともに、原生動物が、境界複合体に依存する割合を定量的に求める。

 

研究3 原生動物が植物の根系発達を促進することを土壌培地環境下で明らかにするとともに、境界複合体の関与があるかどうかを品種間比較によって検証する。

 

 

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