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環境管理学科

2019/10/21

竹の不思議な生態と構造を応用し、ものづくりのさらなる技術発展をめざす。

井上 昭夫 教授/里山生態学研究室

竹の研究と聞くと珍しく感じますね! そもそも竹って木ですか?それとも草ですか?

実は、そのどちらでもないんです。いってみれば竹は竹。生物学的にはタケ亜科に属しています。木でも草でもないだけに、節(ふし)があったり中が空洞だったり、竹は他の植物にはない不思議な特性を持っています。なぜ竹に節があるのか、なぜ中身が空っぽなのかといったことはよく知られていない一方、竹は日本人にとって馴染み深い存在です。誰もが知っている『竹取物語』。食用としてのタケノコ。たけかんむりの漢字には笛、筒、箱など、道具に関する字が多い。それだけ日本人は竹を暮らしの中に取り込んできたといえるでしょう。

確かに、日本人にとって竹って身近なものですね。そういえば、あの節ってなんのためにあるんですか?

ずばり、竹の強度を高めるためにあります。試しに大きめの紙を丸めて振ってみてください。節のような仕切りのない単なる空洞は、すぐに折れ曲がってしまいますよね。

竹の節の間隔を測ってみると、根元が狭く、上に行くにつれて広くなっていきます。さらに先のほうになると、根元同様に狭くなってきます。間隔が狭いのは丈夫にするためです。根元は自重に堪えられるように、先は枝葉を支えられるように狭くしています。上にいくにつれて広く、といいましたが、なぜ一定の間隔ではダメなのでしょうか。それは、丈夫になり過ぎて強風などで横から大きな力が加わると折れてしまうからです。中ほどの間隔を広げておくことでしなやかさが生まれ、強い風が吹いても力を逃せるようにしてあるのです。

竹の節の間隔を図る写真

強さを増すためのしくみは、まだあります。竹をスパッと切ってみると道管や師管と呼ばれる水と養分の通り道があります。その道管や師管の束を維管束鞘(いかんそくしょう)といいます。維管束鞘は外側ほど密に通っていて、中心に近づくほど少なくなります。単なる通り道ならどこに位置してもいいようなものですが、理由があります。人間でも体を曲げる体操をしてみると、負荷がかかるのは常に身体の外側だとわかりますね。それと同じで、外側を丈夫にすることで竹自身を支持する役割を果たしています。維管束鞘は水や養分を通すと同時に、鉄筋コンクリートにおける鉄筋のような働きもこなしています。

維管束の写真
外側に向かうにつれて維管束が集中しているのが分かる。

でもタケノコは生食もできるほど柔らかいですね? どうやって成長するんですか?

はい。タケノコのときはまだ柔らかくて、成長に伴って段々と木質化していきます。特徴は、なんといってもその「成長のスピード」。とてつもなく速いんです。わずか2〜3カ月のうちに10〜20メートルも成長します。成長の最大記録は1日で1.2 メートル! 凄いでしょう? このように2〜3カ月の間に驚異的なスピードで成長するのですが、成長しきってしまうと、その後は伸びも太りもしません。日本昔話の「かぐや姫」もそうですね。竹取の翁が竹の中から見つけたときは「三寸ばかり」(約10センチ)だったのが、わずか3カ月で成人しています。きっと竹の特徴になぞらえたのでしょうね。

樹木の場合、種類や環境にもよりますが、20メートルにまで達するには、30年や40年はかかります。その点竹は、他の植物との光の奪い合いなど、生存競争において有利になります。

ではなぜ竹がこれほど短期間で急激に伸びるのかといえば、一つには「成長点」の違いがあります。樹木は先端の1カ所で細胞分裂して伸びていきます。それに対して竹はすべての節に分裂組織があり、成長点の数が非常に多いのです。アコーディオンをイメージしてもらえればわかりやすいと思います。すべての節がアコーディオンのように一斉に広がっていくような感じで成長するわけです。そして、節の数はタケノコの段階で全て揃っています。タケノコを食べるとヒダヒダがありますよね? あれが節です。

節の数がよくわかるタケノコの写真
竹の節は成長するにつれて作られるのではなく、タケノコの段階ですでに数が決まっている。

タケノコのあのヒダが伸びて竹になるんですね! 知りませんでした。

そう、あの間隔が一気に広がるんです。竹の成長にはまだ秘密があります。地面から下は皆「地下茎」と呼ばれる茎でつながっていて、竹がつくり出した養分を地下茎に送り蓄えていきます。そして、タケノコはその養分を使い成長していきます。いわば親の稼ぎでずっと面倒をみてもらっているようなものですね。樹木の場合は種が落ちてそこで発芽し、あとは枝葉を伸ばして自力で栄養を稼いで生きていきます。竹とは随分待遇が違いますね。竹はさしずめ植物界のぼんぼん。樹木は苦学生といったところでしょうか。

地下茎の写真
地上から出ているそれぞれの竹は、地下茎で全てつながっている。

知らないことだらけでした。しかし、竹も花を咲かせると聞いたことがあります。他の植物と同じしくみで繁殖するのではないですか?

よくご存じですね。たしかに竹も花を咲かせます。竹は不思議な植物だといいましたが、花についても謎が多いのです。種類により異なりますが、60年から120年に1回という極めて長いスパンで咲きます。一生に一度見られるかどうかですね。1960年代の後半、マダケという竹が全国で一斉に花を咲かせたことがあったのですが、あたかも竹自身が年数を数えているかのように、全国的にほぼ同調して開花するという現象が起こります。しかし、おしべとめしべによる優性繁殖は実際には困難です。それに竹は地下茎による無性生殖で増えますので、とくに花が必要というわけでありません。竹を別の場所に植える場合は、竹の根っこを切って移し替える株分けによって行われています。

そもそも先生は、何のために竹の研究をされているのですか?

説明してきた竹の性質を端的にまとめると、竹は「最少材料最大強度」を実現している植物だと言えます。竹の生態と構造を応用するための「生物模倣」について研究し、少ない材料でより軽くて丈夫な新素材の開発につなげるのが目標です。

私は森林科学という分野の研究者ですが、共同研究者には物理学や土木工学の専門家がおられます。物理学者はカーボンナノチューブ、土木工学者は海底トンネルといったように、皆さん中身が空のものを研究していて、その発展に竹の原理を応用することをめざしています。世の中には中が空洞になったものはたくさんあります。身近な例だと電柱がそうです。中身を空にすることでコンクリートを節約し、かつ軽量化をしています。仮に中身を詰め込むと丈夫になり過ぎて、台風が来れば自重に耐えきれず根元から折れてしまいます。そこで竹と同じように、強風でもたわむようにつくってあるのです。

昨今の日本は災害が多く続いていますね。今、津波による被害が想定される地域に、津波避難タワーの建設が進められています。これにも竹の生物模倣が適用できるのではないかと思っています。竹のようにしなやかな構造物にすることで地震による揺れのエネルギーをうまく逃がしたり、タワー同士を根っこでつないで津波に流されないようにしたり。また、津波避難タワーは海沿いにありますので、錆が発生しやすいために定期的に部品を交換しないといけないのですが、最小材料になっていれば低コストで取り替えることができることでしょう。もちろん実現するのは、まだまだ先になるとは思いますが、いつの日か省資源・軽量・高強度・低コストの技術が確立し、さまざまなシーンで応用される未来を夢見ています。

井上 昭夫 教授(近畿大学 農学部 里山生態学研究室)