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食品栄養学科

2019/9/30

お肌のハリに欠かせない「エラスチン」。その機能にせまる。

先生が研究されている「エラスチン」って何ですか?

サプリメントや化粧品などの材料になっているコラーゲンはご存じかと思います。体の弾力性や肌のハリを形成するのに役立っているタンパク質です。そのコラーゲンと同じくハリと弾力の維持にとても大事な成分が、「エラスチン」です。エラスチンにはいろんな働きがあって、とても重要な物質なのですが、あまり耳にしたことはないと思います。まったく水に解けず、扱いにくい材料といわれており、そのため研究があまり進んでいないという事情もあります。

エラスチンとコラーゲン

両者の違いを説明しますと、コラーゲンは強度を司るタンパク質で、伸びたり縮んだりしない反面、引っ張りに強い「膠原(こうげん)線維」です。一方、エラスチンはしなやかで伸縮性(弾性)があり、力を外すと元へ戻る性質を持つ「弾性線維」です。つまりコラーゲンは強さ、エラスチンは弾力性が特色といえます。例えば、伸び縮みが必要な血管や肺などの組織には、エラスチンの弾性がその特性を与えているのです。もちろん、どちらも必要な成分であり、エラスチンがコラーゲンを束ねているという共存関係があります。

皮膚の断面図
コラーゲンだけではなくエラスチンがあることによって肌の弾力が保たれる。

とても重要な存在のようですね。ところで、エラスチンは体内で生成できるものなんですか?

コラーゲンは体内でつくり出すことができるのですが、エラスチンは出生前から赤ちゃんの時期までに生成され、あとは年齢とともに壊れていくだけで、基本的には再生しないと言われています。それが目に見えてわかる現象としては肌にシミができる、あるいは肺の伸び縮みができなくなって肺気腫を患う、血管の弾力性が衰えて動脈硬化になるといった一般にいう老化や病気です。それをエラスチンでどうにかできないかと思ったのが研究の始まりです。体内で再生しにくいのであれば、摂取する方法を探っていこうと考えています。

研究に使うエラスチンをどこから調達するのか。企業の研究においてはブタの靭帯から抽出することが主流となっていますが、その他にも魚の心臓部分についている動脈球に、ものすごくたくさんのエラスチンがあることがわかりました。私は魚類、とりわけ近大マグロから取る試みを始めています。魚類を選んだのは、食品開発を想定した場合、宗教や文化によっては肉由来の食品がダメということもあるし、魚なら日本人の食習慣にも合っていると思ったからです。

竹森 久美子 准教授(近畿大学 農学部 栄養機能学研究室)と学生

エラスチンは肌以外にも健康効果はあるんですか?

私は、エラスチンを摂取したとき、どのような影響があるのかを多方面から調べてきました。

まず行ったのは血管に関する実験です。エラスチンを高純度に抽出したエラスチンペプチドを高血圧ラットに一定量食べさせてみました。えさに混ぜると量が一定しない懸念がありますので、直接口から入れました。すると、高血圧のモデル動物というのは通常、血管の内側である内皮細胞がささくれ立つなど、高血圧の兆候が見られるのですが、エラスチンを食べさせると血圧は上がったままなのに、きれいな状態が保たれています。

また、近畿大学生物理工学部との共同研究では、血管に圧を加えるという実験をしました。弾力のある血管なら少ない圧でふくらむ。硬くなった血管に同じ圧を入れてもふくらみが少ない。カチカチのホースをイメージしてもらえればわかりますね。実験の結果、エラスチンを食べさたラットは血圧が高くても、血管の物理的なしなやかさも維持されていたのです。

肌だけでなく、血管までしなやかにしてくれるのはスゴいですね。

血管のイメージ

それがエラスチンの効果です。先ほどの実験は大きな血管においての実験だったのですが、実は、高血圧というのは小さな血管に血液が行き渡らない状態のことをいいます。末端まで血が行き届いていないので、体がそれを感知して圧を上げて血流をよくしようとするわけです。

小さな血管に対する影響をみる実験では、高血圧からより症状の進んだ脳卒中を起こす状態にしたラットを使いました。この実験で注目したのが腎臓への影響です。腎臓は血圧の影響を非常に受けやすい臓器なのですが、実験の結果、エラスチンを摂取させたラットの腎臓内の血管がとても多く生き残っていて、高血圧のダメージを受けていない様子でした。実際に壊死した血管の数をかぞえたら非常に少ない。さらにろ過——腎臓は老廃物などをろ過する機能を持っていて、その部分の血管だけを取り出して血管が壊れる前に発現するタンパク質を調べてみると、エラスチンを食べたラットはそれが少なかったのです。

なぜそんなに少ないのか。そこで今度は白血球がどういう状況になっているのかをみることにしました。白血球は体に病原菌などの外敵が入り込もうとしたとき、侵入を防ぐために働きますが、異常に活性化してしまうと、体を壊すことになります。いろんな生活習慣病も白血球の過剰な反応が原因の一つであるといわれています。

実験ではエラスチンを食べさせている血液環境と同様にして、そこへ白血球をばらまきました。普通の状態のとき、血液中の細胞成分は血管の中心に流れています。ところが白血球が活性化すると、それが何かの信号によって白血球が血管の壁に転がり、内皮細胞にくっつこうとする動きをします。これは外敵を攻撃する前段階のアクションです。実験ではエラスチンを摂取したラットは、白血球と内皮細胞のくっつきが少ないという結果が出ました。白血球が血管を壊さないようにしていたわけです。大きな血管、小さな血管ともに、エラスチンを摂取したラットは、血管の内皮細胞がきれいで、白血球とのくっつきもみられなかった。こうした効果を確認できたので、今はその理由を探っているところです。

皮膚への影響はどのように調べましたか?

これも生物理工学部との共同研究ですが、脱毛状態のヘアレスマウスにエラスチンを塗って紫外線を照射する一方、塗っていないマウスにも紫外線を当てるといった実験に取り組みました。その後皮膚を引っ張り、伸び方を比較してみました。するとエラスチンを塗っていないマウスは皮膚が分厚くなって伸びがなかったのに対して、エラスチンを塗ったマウスは、よく伸びてしなやかさが保たれていました。肌にとってコラーゲンだけではなく、エラスチンがいかに重要な成分かということです。

長年にわたって日光を浴び続けることで肌に深いシワができたり、シミができたりする皮膚の変化を光老化といい、加齢による老化と区別しています。光老化にもエラスチンが関係していて、この場合、エラスチンが減るというよりも、紫外線によって異常なエラスチンが溜まっていくことで深いシワができてしまいます。エラスチンで紫外線から肌を守れば、異常なエラスチンを蓄積しない効果も期待できるはずです。

最終的には誰もがエラスチンを摂れる製品開発をめざしておられるのですね?

エラスチンが血管や腎臓の老化防止にも効果があるとなれば、動脈硬化や腎臓病の予防にも一役買えるかもしれません。腎臓病に有効ならば、人工透析患者を減らせるようになる可能性もあります。さらに紫外線による肌へのダメージも防げる。私はこのエラスチンを健康維持につながる機能性食品の材料に使うことをめざしています。体内でどんどん再生できるコラーゲンとは違って、つくれないエラスチンだからこそ食品で摂取して、体内に維持できるようにしたいと思っています。また、現在ではできないとされている体内で再生させる道も同時に研究していきたいと考えています。

竹森 久美子 准教授(近畿大学 農学部 栄養機能学研究室)